「ツタ?」
さらに眉を寄せ、やがて呆れたように口の端を吊り上げる。
「あぁ あのチビのコトか。里奈、お前まだあの男の事を気にしていたのか?」
その言葉に、再び里奈の瞳に涙が浮かぶ。みるみる溢れ、頬を伝う。
「サイテーよ」
声を震わせ、またしても両手で顔を覆う。
優輝はやれやれと両手を広げた。
「悪いけど、結果を決めたのは里奈自身だ」
まるで諭すような言い草。
「あの男を信用しなかった、里奈が悪い」
バッと顔をあげる。円らな瞳をさらに見開き、口は半開きのままガクガクと震える。
優輝は小首を傾げた。
「大迫美鶴の事だってそうだ。みんな、里奈が招いたんだよ」
「何の話?」
美鶴には、二人の会話がいまいち理解できない。
コウくん。
そうだ。里奈は中学一年の時、同じ塾の他校の生徒と付き合っていた。里奈は彼をコウくんと呼んでいた。
コウくん? 蔦くん?
蔦とは、あの男子生徒?
「蔦?」
混乱する美鶴の呟きに、優輝は瞳を閉じる。
「くだらない昔話だよ」
恋に盲目してお互いの本心が見えなくなっていた、可哀想な二人のお話。
優輝は、本当に御伽噺でも語るかのように、ゆるやかに口を開いた。
「本当にくだらない、幼稚で無様な昔の話」
蔦康煕から告白された時、里奈は驚きのあまり声も出なかった。
「あっ ごめん」
何の反応も見せない里奈に、康煕は視線を落した。
「俺みたいなチビ、嫌だよな」
自分に言い聞かせるように言って、顔をあげた。
「ごめん。こんなの迷惑だったよな」
振られても笑おう。そう決めていた笑顔を浮かべ、康煕は一度大きく息を吸う。
「ごめんな。今の忘れて」
じゃっと手をあげ向けられた背を、思いっきりひっぱることしか、里奈にはできなかった。
「えぇ? 彼氏できたぁっ?」
中学に入学してまだ数ヶ月の、まだ幼く、そしてまだ快活で素直だった頃の美鶴。そんな彼女の大声に、里奈はビックリ飛び上がる。
「声大きいってっ!」
一生懸命声を潜ませ、キョロキョロと辺りを伺う。
階段に腰を下ろし、隠れるように二人だけ。
昼休みの裏庭。誰もいないだろうが、それにしても美鶴の声は大き過ぎる。
里奈に咎められ慌てて両手で口を覆うも、目はパチクリ開いたまま。
「彼氏って、彼氏って、ひょっとして?」
恥ずかしそうに俯く里奈の顔を、無遠慮に覗き込む。
「ひょっとして、前から言ってた同じ塾の子?」
|